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福岡高等裁判所 昭和29年(ラ)83号 決定

抗告人 上村一郎(仮名)

相手方 大田明(仮名)

右法定代理人親権を行う母 大田ナツ(仮名)

主文

本件抗告を棄却する

理由

一、本件抗告の趣旨及び理由は別記の通りである。

二、相手方大田明が抗告人の四男上村四郎と大田ナツとの間に昭和二六年○月○○日出生した者であつて、大田明が右四郎を相手とし認知の訴を提起し勝訴の判決があり、遅くとも昭和二八年○月頃までには同判決が確定したことは一件記録に徴し明らかであるから、抗告人は大田明の祖父に当り、民法第八七七条の直系血族として大田明を扶養する義務ある者に該当するのである。そして記録によれば大田明の父たる上村四郎及び母たる大田ナツはともに扶養の資力に乏しく殊に四郎は昭和二九年○月以来所在不明であり、明の扶養義務者としては抗告人夫婦及びュツの父母が存するけれども抗告人の妻及びナツの母はともに扶養の資力なく結局明に対する扶養能力ある者は抗告人とナツの父大田勝助の両名であつて、明の母たるナツの扶養能力の足らないところは、明の祖父たる右両名において扶養するを要するにもかかわらず明の出生以来ナツ及び大田勝助は協力して明を扶養してきたのであるが、抗告人は明に対しなにらの扶養義務を果していないことを認めることができる。

原裁判所はその審判書の記載に徴し明らかなように、扶養の程度方法について扶養権利者たる明の需要、前示各扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、抗告人が相手方明に対し昭和二八年六月以降昭和三二年七月まで毎月金一、五〇〇円を当該月の末日までに支払うことを命じたのであり、それは反面抗告人が明を引取り扶養することは適当でないと判断したものに外ならないのであつて該判断は正当である。そしてその他抗告人の所論を斟酌し本件記録を精査するも原審判に不当の点はない。

よつて本件抗告を棄却すべく主文の通り決定する。

(裁判長判事 桑原国朝 判事 二階信一 判事 秦亘)

参照

抗告の趣旨

原審判を取消す、相手方大田明の申立を却下するとの審判を求めます。

抗告の理由

上村四郎は抗告人私の四男であること、相手方大田明が大田ナツの子であることは事実ですが四郎が大田ナツと情交関係があつたとか大田明が四郎の子である事などは私は全然知らなかつたのであります認知訴訟が提起され明が四郎の子である旨の裁判があつたのでありますが私としては今でも疑問に思つてゐるのであります。

大田明が仮令四郎の子であるとしても私が同人を扶養することはどうしても承服することは出来ませぬ、大田ナツは四郎の妻でなく婚約者でもなく又四郎からナツのことに付て前に一言も話したことはなかつたのでありまして勝手にナツと四郎が野合して出来た子をどうして私が扶養すべきでしようか。

四郎は生存しており○○方面で働いているとのことですから同人を相手とすべきだと思ひます。

私は多数の家族を抱え漸く生活している貧農でありまして現金収入は僅少で毎月千五百円も支出することは出来ませぬそんなことをすれば私共が直ちに糊口に窮することになりますナツの父親大田勝助は田も数反持つており私よりずつとよい暮しであります相手方がどうしても明を育て得ないと云ふならば四郎が引取る迄一時私の方で引取つて扶養する以外には私には出来ないことであります。

以上の通りであります。

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